大阪地方裁判所 昭和47年(手ワ)1427号 判決 1973年6月07日
原告 松岡光雄
右訴訟代理人弁護士 伊勢谷倍生
右同 山下潔
被告 株式会社秀美堂
右代表者代表取締役 谷紀明
右訴訟代理人弁護士 阿部幸孝
右同 林義久
主文
被告は原告に対し次の金員を支払え。
金二六六、七〇四円とこれに対する昭和四七年九月一五日から完済まで年六分の割合による金員。
金一二〇万円とこれに対する昭和四七年九月三〇日から完済まで年六分の割合による金員。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
事実
≪省略≫
理由
第一、請求原因事実
原告主張の請求原因事実は全部当事者間に争いがない。
第二、被裏書人欄の抹消
一、≪証拠省略≫によると、本件約束手形二通はいずれも第一裏書として受取人の裏書がなされているが、その被裏書人欄は株式会社住友銀行と記載されたものを二条の線で抹消し、受取人の抹消印が押印されていることが認められる。
そして、このように被裏書人のみの抹消がある場合にも手形法一六条一項により裏書の全部抹消として「記載セザルモノト」看做すべきか否かについては種々の見解があるが、被裏書人欄が抹消され、抹消個処に裏書人の押印がされているときには、反対の立証がない限り、抹消権限ある者により抹消された後、白地裏書がなされたものとみるのが社会通念、手形の流通保護、白地裏書制度に照らし相当であると考える。したがって、本件各約束手形は裏書の連続が認められるのであって、この連続を欠くとの被告の抗弁は採用できない。
二、そうすると、本件各約束手形の第一裏書は白地裏書として有効であるから手形法一七条によりいわゆる抗弁の切断を受け被告の受取人会社に対する人的抗弁である相殺の抗弁をもって、本件手形の所持人である原告に対抗できないことはいうまでもないところである。また、被裏書人欄の抹消が手形法一六条一項に従い全部抹消とみるべきであるとの見解によっても、それは「裏書の連続」の「関係ニ於テ」のみいい得るのであって、このようにして切断された裏書につき、その実質的な権利移転が被告主張の如く常に指名債権譲渡の効力しか有しないものと論ずることはできないのである。すなわち、同条項は、裏書の連続という形式的な問題に限るべきであって、これとは別に手形上の権利の移転として被裏書人欄の抹消の裏書が、白地裏書として効力を有することまで否定しているのではないのであるから、本件各約束手形のように被裏書人の抹消個処に裏書人の押印が了されているときは、それが抹消権限のないものによって変造されたことなど特段の事情がない限り、有効な白地裏書として、移転的効力、担保的効力、人的抗弁の切断などの効果を生ずるものと考える。
したがって、被裏書人欄の抹消した裏書は全部抹消として記載しないものと看倣され、その間の権利移転はすべて指名債権譲渡の効力のみを有するにすぎないことを前提とする被告の相殺の抗弁もまた失当であって、採用することができない。
第三、結論
以上のとおりであるから、被告は原告に対し本件約束手形金およびこれに対する満期の日から支払ずみまで手形法所定率による法定利息金として主文第一項記載の金員の支払義務があることが明らかである。よって、被告に対しその支払を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉川義春)
<以下省略>